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2006年8月15日 (火)

戦争と人間

[1970~1973年・監督/山本薩夫■おすすめ度★★ 観ておくべき度★★★★ 思い入れ度★]
【第一部運命の序曲(1970年) 第二部愛と悲しみの山河(1971年) 第三部完結篇(1973年)】

「人間の條件」と同じ五味川純平を原作者とした、こちらは日活製作の歴史大作。
ただ、「人間の條件」と比較すると、残念ながら映画作品としてのクオリティはずいぶんと劣ってしまう。

加えて作風的にどちらかと云えば恋愛・ロマンスのほうに比重が置かれていたりするので、作品そのものの持つべき重厚なテーマさえも阻害されてしまう。

それでも、本作が観る価値が充分にあるのは、日本映画には珍しく大東亜戦争を加害者の視点でその醜悪さを抉り出し、観客に突きつけるからである。

満州事変から始まり、盧溝橋、そしてノモンハンへと至る大日本帝国の北方政策を背景に、戦争とは軍人や政治家たちが勝手に行うのもではない、とここでは明言をする。そこには銃を持たぬ一般の市民たちも利害により深く関わってくる。
利殖のために戦争を利用する、という行為は無実ではないだろう。我々はこうした内的矛盾を孕まねばならない。戦時下においては、非戦闘員たる市民もまた間接的加害者なのだ。この作品はそれを教えてくれる。
だが、残念ながら今の日本では被害者意識や修正主義ばかりがまかり通り、なかなかそれを声高に主張するものは少ない。それをこれだけの大作に仕上げ形に残した、その意味でも映画としては残るべき作品だろう。

だが、悲しむべきは製作された時代があまりにも悪すぎた。スペクタキュラーたる戦闘シーンは悲しいほどに貧相で、時として観ていてツラくなるほどである。潤沢な予算も与えられず、それでも会社の方針で大作としての'絵'をつくろうと足掻くさまはまさに当時のノモンハンで充分な武器も与えられず無駄に玉砕させられてゆく関東軍の兵士たちとダブる光景だ。

製作年度の70~73年は、低予算プログラムピクチャーこそまだまだ勢いを保っていたが、映画産業は次第に坂を下りつつあった頃。「日活ロマンポルノ」シリーズが始まるのが1971年だから、この「戦争と人間」はまさにその斜陽に向かうまっ只中に製作されたことになる。
その後'にっかつ'と改名したこの会社は80周年記念作品と銘打ち1992年「落陽」を製作、その歴史に止めを刺すのだけれど、ロマンポルノ移行の過渡期に作られ、結果的に一般映画制作の道を閉じる象徴的な作品となった「戦争と人間」と同じく、その「落陽」も満州事変を描いたものだった。その題名の暗喩と共に'ライジング・サン'日活の終焉と、会社トップたちのどこかで「戦争と人間」の時代を懐かしむ気持ちもあったのでは? と思わせる滑稽さも滲み出た題材のチョイスには涙を禁じえない。
(「ただ、「落陽」があったからこそマイク水野の超モンドムービー「シベリア超特急」が生まれた、ということでは記憶されるべき作品だが。)

ハリウッドの戦争スペクタクル映画と比較するより、欧州、特にイタリアあたりの作る戦争映画のような雰囲気を期待して観ればこの作品の良さもまた見えてくるであろう。

日本の生んだ戦争大作映画のひとつとして、リストには欠かすことはできない作品ではある。

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