2006年10月20日 (金)

ゆきゆきて、神軍

[1987年・監督/原一男■おすすめ度★★★★★ 観ておくべき度★★★★★ 思い入れ度★★★]

これは事実である!!

と、梶原一騎でなくとも断言できる、凄まじいとしか言いようの無い映画。

現代の日本にも思想犯がいた。それが奥崎謙三だ。

昭和天皇にパチンコを向け、天皇のアイコラポルノビラを撒いた男。人一人殺してもいるが、彼にとってはドストエフスキーの『罪と罰』の主人公、ラスコーリニコフのように「正しい行動」だった。だから反省はしていない。

奥崎はスクリーンの枠さえ飛び出さんかぎりに疾走する。その姿は強引に泥田に分け入っていくダンプカーのようだ。Wikipediaでの奥崎謙三の略歴を眺めただけでもクラクラするほどだ。明らかに、我々の一般常識とは相容れない人物。

そんなワン・アンド・オンリーな男を追った、原一男の大傑作ドキュメンタリー。

本編と共に監督の原一男が綴ったライナーノート(初公開時にはこれがパンフレットとして劇場内で販売していた)があるので、それを併読しながらの観賞を薦めたい。

尚、この映画について極めて詳細な内容を記したサイトを見つけたのでリンクさせていただきます。

[関連サイトリンク]

かなり映画の中身を細かく記述しているので、それをあまり好まない方はご注意を。もちろんオチも明記されてますので。
…って、ドキュメンタリーなんだから『オチ』ってのはないですね。

よく云われていることだが、奥崎はこの映画によってますます「奥崎謙三」としての自分を肥大化し、演じ続けるようになったようだ。
『観られる』『記録される』というのはそれほどに魅惑的なのだ。
奥崎は日本や社会というものを舞台に見立て、「奥崎謙三」という役を演じることに意義を見出した。その熱病にも似たものは映画の撮影が終わっても醒めることがなく、暴走を続けることになる。

ついに映画の枠そのものを飛び越え、奥崎こそが、「ブレーキの壊れたダンプカー」そのものになってしまったのだ。その瞬間から、本作は極めて稀有な『予告された殺人の記録』という役回りを担わされてしまうことにもなる。いや、実際の殺人そのものはしていないが。

我々がこの映画で突きつけられるのは、その、人が人以上のものになろうと豹変していく過程だったのかもしれない。

もの凄いパワー溢れる映画だと思う。もし、これが「映画」と読んでいいのなら。
この作品は「映画」というカテゴリーにはとうてい収まりきらぬほどパワフルな"何か"なのだ。

実を云うとボク自身も、この作品のレビューを書こうにもどうにも書けず、ここにアップするのに1ヶ月を費やしてしまった。「ゆきゆきて、進軍」の前では、完全に思考停止状態に陥らされてしまう。今だってまだまだ不充分とは感じているのだが、もはや言葉を紡いだところでこの圧倒的な迫力には及ぶべくもない。
これはボクの敗北宣言だ。

その証拠と言っていいか、これを観終わったあとものすごく疲れる。放心状態になり、しばらくは何も手につかない。その虚脱感は数日抜けないくらいだ。
まるでこのフィルムを媒介に、奥崎謙三が観客から精気を吸い取り自らのエネルギーにしているかのように感じるのはボクだけだろうか。

そんな奥崎も2005年鬼籍に入った。

この吸い取られた莫大なエネルギーはいったいどこへ行くのだろうか。
ふと、思う。

ゆきゆきて、神軍
ゆきゆきて、神軍

原一男 奥崎謙三
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2006年8月15日 (火)

戦争と人間

[1970~1973年・監督/山本薩夫■おすすめ度★★ 観ておくべき度★★★★ 思い入れ度★]
【第一部運命の序曲(1970年) 第二部愛と悲しみの山河(1971年) 第三部完結篇(1973年)】

「人間の條件」と同じ五味川純平を原作者とした、こちらは日活製作の歴史大作。
ただ、「人間の條件」と比較すると、残念ながら映画作品としてのクオリティはずいぶんと劣ってしまう。

加えて作風的にどちらかと云えば恋愛・ロマンスのほうに比重が置かれていたりするので、作品そのものの持つべき重厚なテーマさえも阻害されてしまう。

それでも、本作が観る価値が充分にあるのは、日本映画には珍しく大東亜戦争を加害者の視点でその醜悪さを抉り出し、観客に突きつけるからである。

満州事変から始まり、盧溝橋、そしてノモンハンへと至る大日本帝国の北方政策を背景に、戦争とは軍人や政治家たちが勝手に行うのもではない、とここでは明言をする。そこには銃を持たぬ一般の市民たちも利害により深く関わってくる。
利殖のために戦争を利用する、という行為は無実ではないだろう。我々はこうした内的矛盾を孕まねばならない。戦時下においては、非戦闘員たる市民もまた間接的加害者なのだ。この作品はそれを教えてくれる。
だが、残念ながら今の日本では被害者意識や修正主義ばかりがまかり通り、なかなかそれを声高に主張するものは少ない。それをこれだけの大作に仕上げ形に残した、その意味でも映画としては残るべき作品だろう。

だが、悲しむべきは製作された時代があまりにも悪すぎた。スペクタキュラーたる戦闘シーンは悲しいほどに貧相で、時として観ていてツラくなるほどである。潤沢な予算も与えられず、それでも会社の方針で大作としての'絵'をつくろうと足掻くさまはまさに当時のノモンハンで充分な武器も与えられず無駄に玉砕させられてゆく関東軍の兵士たちとダブる光景だ。

製作年度の70~73年は、低予算プログラムピクチャーこそまだまだ勢いを保っていたが、映画産業は次第に坂を下りつつあった頃。「日活ロマンポルノ」シリーズが始まるのが1971年だから、この「戦争と人間」はまさにその斜陽に向かうまっ只中に製作されたことになる。
その後'にっかつ'と改名したこの会社は80周年記念作品と銘打ち1992年「落陽」を製作、その歴史に止めを刺すのだけれど、ロマンポルノ移行の過渡期に作られ、結果的に一般映画制作の道を閉じる象徴的な作品となった「戦争と人間」と同じく、その「落陽」も満州事変を描いたものだった。その題名の暗喩と共に'ライジング・サン'日活の終焉と、会社トップたちのどこかで「戦争と人間」の時代を懐かしむ気持ちもあったのでは? と思わせる滑稽さも滲み出た題材のチョイスには涙を禁じえない。
(「ただ、「落陽」があったからこそマイク水野の超モンドムービー「シベリア超特急」が生まれた、ということでは記憶されるべき作品だが。)

ハリウッドの戦争スペクタクル映画と比較するより、欧州、特にイタリアあたりの作る戦争映画のような雰囲気を期待して観ればこの作品の良さもまた見えてくるであろう。

日本の生んだ戦争大作映画のひとつとして、リストには欠かすことはできない作品ではある。

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2006年8月14日 (月)

人間の條件

[1959~1961年・監督/小林正樹■おすすめ度★★★★★ 観ておくべき度★★★★★ 思い入れ度★★★★★]
【第1部純愛篇・第2部激怒篇(1959年) 第3部望郷篇・第4部戦雲篇(1959年) 第5部死の脱出・第6部曠野の彷徨(1961年)※各2部ずつ封切り】

もし、日本の関わった大東亜戦争を体感できるものがあるとしたら、この映画を置いて他に無いだろう。

全上映時間、574分。(現行DVDによる。)およそ10時間にも及ぶこの6部作は、日本映画が最も力のあった時代が生んだ不滅の金字塔である。

物語は簡素だ。
『仲代演ずる主人公・梶(これほどの長尺の主人公なのに下の名が無い!!)が戦争の激化と共に満州・北方戦線に送られる。』
これだけである。いや、確かに細かいことを連ねるといろいろあるが、骨子はただこの一文に尽きる。

この映画が製作された当時、1959年といえば、まだ戦争が終わって15年も経ってはいなかった。製作者たちにも出征経験のある者も多かっただろう。だからこそ、舞台が戦地に変わってからの描写は迫真の一語である。

中でもボクが最もリアルさを感じたのが、戦線での最初の戦闘に遭遇するシーンだった。
よくあるような、勇ましく銃を放つ兵士なんてそこには一人もいない。塹壕に潜み、いつ撃たれるか、いつ爆撃されるか、という、すぐ隣りに死の暗渠が口を広げ待ち構えている極限の恐怖。戦場にいるのはヒーローなぞではなく、常に己れの意思とは無関係に放り込まれた市井の平凡な生身の人間なのだ。お国のためとか、そんな大儀名分なぞそこでは無意味だ。ただ、死にたくはないという実にシンプルな感情のみが全身を貫く。それを観客に突きつける。
戦闘シーンにおいて、これほど真に迫る映像を観させられたことは他に例がない。
このシーンを観るだけでもこの映画の価値は十二分にある。

おまけに、前線のトンでもなく広大なオープンセット。これほどの長尺をまったく飽きることなくグイグイと引っ張っていく説得力と緊張感。日本人として、必ず体験しておくべき映画だと思う。

そう、この映画を観る、ということそのものが『体験』なのだ。日本人なら、長い人生のうちの10時間は「人間の條件」に費やすべきなのだ。

かつてはオールナイトの定番で毎年どこかしらでは企画されていたこの「人間の條件」だったのだが、すべてを上映するにはあまりに長尺ゆえ、近年ではそれもめっきり減ってしまった。何せ休憩を含むと12時間にも及ぶ一大イベントである。自分も20代前半の頃、今は無き銀座松竹で観たが、たしか22時開始、終了が翌朝9時半だったと思う。これがオールナイトの初体験でもあった。

やはり年に一度くらいは一挙上映をしてほしい作品。それは、この作品を世に送り出した映画会社の義務でもある、と思う。
松竹さん、どうかお願い!

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DVDで観賞するときも、一気に通しで観てこそ、この映画のほんとうの素晴しさが実感できる。ぜひともそうして欲しい。

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